江戸の落穂 ~江戸っ子のお洒落事情~

夢野晴吉先生のコラム第四十八弾  
  江戸の落穂 
 ~江戸っ子のお洒落事情~

 
 江戸っ子はお洒落だったという話がありますが、現在のお洒落とは少し違うようです。
 
 江戸っ子のお洒落は人から見えにくい所にお金を掛けるのが粋(いき)とされていましたので、羽織の裏地にお金をかけたり、女性では長襦袢の胸元の辺りに綺麗な刺繍をほどこすなど、はたから見ると全く気付かれないようなものでした。

 そういう意味では、私の父は大変お洒落な人でしたから、ある時、下駄を買いに一緒に連れられて行った事があります。
 
 行きつけにしていた浅草の下駄屋さんに着くとお店の人が、「頭(かしら)が見えたから台を持っておいで」というと鼻緒がつけられていない下駄の部分(台)をいくつも持ってくるのです。
 
 その中から父は一つ一つながめては、
正目(まさめ・・・木の木目)の具合を見るのです。
真っすぐな正目が良い時もあれば、ちょっと変わったものを「これは荒くれていて良いね」という時もありました。
 
 こうして台を決めてから鼻緒をどれにするかとあれこれ悩むのですから、一度に二足三足となると幼かった私は時間を持て余してしまい、退屈してしまったものでした。