江戸の落穂 ~江戸っ子気質と彫物(1)~

 
                        夢野晴吉先生のコラム第十弾
江戸の落穂  
~江戸っ子気質と彫物(1)~をお届けいたします。

 
江戸の落穂 ~江戸っ子気質と彫物(1)~
 
 祭りや火事場の浮世絵を見ると、
江戸っ子には随分多くの人が刺青(イレズミ)をしていると思いますが、
これは絵として見栄えが良いからです。

 あの形の刺青が一般に見られるようになったのは、
江戸中期以降だと言われています。

 中国の三大奇書の一つ、
水滸伝(すいこでん)』が日本に入って来たのと同時に、
刺青も伝来したと申します。

 その当時最大の娯楽とも言える講談で取り上げられて、
瞬く間に水滸伝が江戸っ子に知られるようになりました。

 何しろ、登場人物のほとんどが、山賊か泥棒で、
主人公達の名前にも、
九匹の龍を背に彫った「九紋龍の史進(くもんりゅうのししん)」、
カイドウの花を背に彫った「花和尚魯知深(かおしょうろちしん)」など、
刺青の絵柄が呼び名になっていたので、
首から太股まで刺青をする「くりからもんもん」が流行(はやり)出したそうです。
 
 ちなみに花和尚とは乞食坊主の意味なのですが、
任侠に憧れる勇み肌(いさみはだ)の江戸っ子達は、
岩に腰かけ、右手に錫杖(しゃくじょう・・・修験者の持つ杖)と、
左手に寿の大盃を持った絵柄を好んで背中に彫ったものです。
                                     続く・・・・