江戸の落穂 ~小言も洒落にする江戸っ子達~

夢野晴吉先生のコラム第二十七弾  
江戸の落穂 
~小言も洒落にする江戸っ子達~をお届けいたします
 
 
~小言も洒落にする江戸っ子達~

 江戸時代は小言を言うのも洒落(しゃれ)ていたので、鈍い頭では何を言われているのか、全く分からないという事があります。

 以前にもお話しましたが、
「手前ぇは、本当に焼け場の稲荷だな、馬鹿野郎!」
と言われれば、焼け跡のお稲荷さんには鳥居がないのと、取得が無い事を洒落をきかせて言っていました。

 こうした小言にさえ、何とも上手い駄洒落を使うところが、江戸っ子達の洒落好きを表していると思います。
 
 「そば屋の湯桶(ゆとう)じゃあるまいし、隅から口を出しゃがって、黙っていろ!」

 これも同様に小言を洒落で言っているのですが、分かりますでしょうか?
 そば屋でそば湯を出す、注口(つぎぐち)と柄のついた漆塗りの容器の事を『湯桶(ゆとう)』と言います。

 この湯桶の形は四角形の急須(きゅうす)といった感じで、四角の一辺は「隅」と呼ばれていて、その先に注ぎ「口」があったので、
  「そば屋の湯桶じゃあるまいし、隅から口を 出すんじゃない」という洒落をきかせた小言が出来たのでしょうが、今では湯桶などと呼ぶ店も客も減っておりますので、こうした洒落も通じなくなりました。