江戸の落穂 ~纏は軍旗のようなもの~

夢野晴吉先生のコラム第二十六弾  
江戸の落穂 
~纏は軍旗のようなもの~をお届けいたします
 
 
~纏は軍旗のようなもの~

“ 私しゃ これでも火事場の纏(まとい)
   振られ 振られて 熱くなる ”

 これは都々逸の文句の一つですが、時代が進むにつれて、芝居や映画、テレビなどで本来の意味や使い方が間違って伝えられているように思いますので、それについて少し書いてみようと思います。
 
 そもそも纏とは火を消す為の道具ではないのです。
確かに浮世絵などでは、火の粉をはたき落とす為に使用しているように見えますが、実際の火事場でそのような使いかたは出来ないのです。

 なぜなら、火事場の大屋根では非常に強い風が生まれるので、その中で纏を一人で高々と振れば、たちまち吹き飛ばされてしまうからです。

 では、実際にはどのようにしていたのでしょう? 
この話は実際に行った人から聞いた話ですが・・・

 纏を大屋根に上げる時は、まず若衆(わかいし)が屋根瓦を蛙又(かえるまた)で割って強く突き立て、飛ばされぬように芯竿(しんざお)を押さえつけながら座り込み、纏持ちが肩の高さで芯竿を持つか、
馬簾台(ばれんだい)を掴んで立っているのが、やっとだったそうです。

 また、纏は合戦時に大将のご座所を示した馬印(うまじるし)を取り入れて、火事場で自分の組の持ち場を示していました。
 いわば、火消しの軍旗と言ったところです。
纏の形に決まるまでは、各組で旗を使った事もありましたが、燃えたり、破れるので纏のあの形になったのです。

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