江戸の落穂  ~江戸っ子は真面目なだけじゃ済まない話~

夢野晴吉先生のコラム第二十九弾  
江戸の落穂 
~江戸っ子は真面目なだけじゃ済まない話~
を、お届けいたします。
 
 
 “あの人は真面目な人だ”と言われれば、大抵は良い事のように思われますが、昔の人々の中には随分変な考えを持っていた人も多かったのです。
 
 世間で、“あの人は堅い人だから、本当に良い人だ”と言われている人も、仲間内からは、“あいつは堅いばかりで、遊びに行っても三味線の前では唄も歌えず、博打もしないし、何が面白くて生きているのか分からねぇや”などと言われたものです。
 
 「三味線の前」とは、三味線に合わせて邦楽の一つも唄える事で、博打の一つもしないなら、何が楽しくて生きているのだ、と言う事を平気で言っている職人衆がいたのです。
 
 それほど当時は、邦楽を個人的に習っている人も多く、遊びの席でもかかせないものだったのです。
 
 私事になりますが、学生時代に「お酒を呑む時に困るといけないから」と私も母に三味線を教えられましたが、残念ながら物にはなりませんでした。
 
 三味線を弾いていて肩が張った事だけは、唯一よく覚えています。