江戸の落穂 ~江戸っ子気質と彫物(3)~

 

夢野晴吉先生のコラム第十一弾
江戸の落穂 
 ~江戸っ子気質と彫物(3)~をお届けいたします。
 
 
江戸の落穂~江戸っ子気質と彫物(3)~
 
 ここでは思わず吹き出してしまいそうな、
江戸っ子の心意気を書いてみましょう。
 
 当時の職人達は仲の良い人々と親戚付き合いをする事を好み、
兄弟分の縁を結ぶ事もありました。
 
 ある仲の良い五人が兄弟分の縁を結んだ事を記念して、
五人集まって一つの絵になる絵柄を考え付きました。
それは、五人で一匹の龍を彫る事でした。
 
 近くの彫り物しに頼めば皆に知られてしまうので、
わざわざ離れた場所の彫り物師に他言無用として、
自分達以外は誰にも知られないようにしました。
 
 出来上がると、彫り物を見せあう彫勇会(ちょうゆうかい)で、
五人が並んでもろ肌を脱いでお披露目した時、
決して離れ離れにならないという五人の心意気に皆が驚き、
拍手喝采を受けて鼻高々でした。
 
 年が経ち、龍の頭を彫った人が死んでしまいました。
頭のない龍は胴だけになってしまって、
鱗(うろこ)がまるで屋根瓦(やねがわら)のようで、
見られたものでは無くなっていたのです。
 
 まさか頭が欠けるとは思ってもいなかった、
と言う、いかにも江戸っ子らしい呑気な話です。
 
                          終わり